死ぬまで男性として生きた、江戸時代の娘『たけ』 の生涯

from:DENNY喜多川

 

この連載では、江戸時代のことを基本的に

「民衆にとっては、性の解放された住みやすい時代」

として描写してきた。

もちろんウソを書いてきたわけではないが、そんな概念でひとくくりにするには、江戸時代は長いし日本は広い。

ということで今回は、江戸時代に生きた、あるLGBT(?)の生きづらさについて語ってみたい。

 

男装していた謎の娘・竹次郎こと『たけ』

 

『藤岡屋日記』と呼ばれる文献がある。

幕末に、古書店主兼情報屋として生きた、藤岡屋由蔵の日記をまとめたものである。

由蔵は古書店を営む傍ら、江戸市中の事件や、噂・落書などを丹念に収集し、それらの情報を諸藩の記録方や留守居役に有償で提供していた。

『藤岡屋日記』には、竹次郎こと『たけ』のことが以下のように書かれている。

「そば屋の忠蔵の元で働いていた竹次郎という小者が、突然腹痛を訴えたので、店の二階で介抱していたら、突然、男子を出産した。

竹次郎は男装し、銭湯も男湯に入っていたので、まさか女とは思っていなかった。

噂がお奉行さまの耳に入る前に、忠蔵は一応届け出を出した」

彼女の性自認や性愛対象は記録に残っていないので、たけがFtM(肉体は女性だが、性自認が男性である人のこと)であったと言い切るにはためらわれる。

しかし男装して男名前で暮らし、銭湯も男湯に入るほど徹底して男性として行動していたのは確かである。

たけが男装していたことは「お奉行さまに届け出た方がいい」こととして考えられていたのは確かだが、そのことが罪に問われた様子はない。

しかしその後、忠蔵は

「身元の確かでない者を雇い、しかも逃げられた(後述)」

ことで、罰金刑に処せられている。

 

犯罪者となってしまった竹次郎こと『たけ』

 

次に竹次郎こと『たけ』は、犯罪者として文献に登場する。

幕府評定所の裁判記録『御仕置例類集』には、こう書かれている。

「右の者は、旅籠屋(女郎屋)に年季奉公していたが、女子のやることを嫌い、やがて男装して旅籠屋から逃げた。

そうして男として暮らしていたが、ひょんなことから彼女が女であることに気づいた男に、『女であることをバラす』と脅迫されて、仕方なく関係を持った。

その男から逃げて、そば屋忠蔵の元で働いていたときに、男子を出産した。

産まれた赤子はすぐに死亡したが、居づらくなったのか、彼(女)は、手近にあった合羽を盗んで逃亡した。

その後、古着商から古着を詐取して質入れし、その金銭を使い果たしたので、入墨の上、五十日間の過怠牢(懲役)に処した」

ここでも、罪に問われているのは男装ではなく、窃盗や詐欺である。

しかし、幕末の江戸が、FtM(と仮定しておく)にとって生きやすい町であったなら、彼(女)が犯罪に走る必要もなかったのではないだろうか。

事実、彼(女)は、自分がFtMであることを隠すために、望まない関係を強いられているのである(避妊具の無い江戸時代には、確実性のある避妊法はない)。

 

最後まで男性として生きた『たけ』

 

最後に彼(女)は、またもや犯罪者として登場する。

文献はやはり『御仕置類例集』であるが、今回は「人倫を乱せし者」の項である。

「右の者は、男のすることが面白いとして、人として守るべき道を乱した上、盗みまで働いた。

過怠牢の処分の際に、『以後男装は硬く禁ずる』と申しつけたにも関わらず男装を続け、さらに二回、罪を犯し逮捕された」

ここでもやはり、男装それ自体は「けしからんが罪では無い」とされている。

ちなみに二回目(トータルでは三回目)の逮捕は、

「火付盗賊改方の手先(非正規の職員)を名乗ってトラブルに介入し、当事者の一人を私的に逮捕・連行・留置した」

こととされているが、やや奇妙である。

この事件で、彼(女)は、特に利益を得ていないのだ。

『江戸の異性装者(クロスドレッサー)たち』の著者、長島淳子氏は、

「彼(女)は実際に、火付盗賊改方の手先であったのだが、火付盗賊改方は手先を使うことを禁じられており、また、このような者を手先として使ったことを知られたくなかったので、彼(女)を逮捕したのではないか」

と考察している。

江戸は、身元のはっきりしない者がまともな職業に就くことが困難な町でもあったので、性別を偽る彼(女)にとっては、なおさら住みにくかったのではなかろうか。

いずれにせよ、この身分詐称は重罪とされ、さらに以前の盗み、そして「人倫を乱したこと」を理由に、遠島(島流し)処分にされたのである。

八丈島に流された彼(女)は、一年ほどで病死しているが、島では男性の職業である鍛冶屋を勤めていたというから、最後まで男性として生きたようだ。

 

まとめ

 

江戸時代が性に解放されていた社会であったということは、人権を重視する社会であったということを意味しない。

むしろ、現代の人権思想から見れば、抑圧された時代であったことを、この一件は物語っている。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

DENNY喜多川

iOSアプリ「セックスの日本史」著者。「歴史は夜作られる」すなわち、セックスこそが歴史を作ってきた、との信念に基づき、研究を続ける歴史研究者。「知っているか?人間のペニスにカリがあるのは、他のオスの精子を掻き出すためだ!」